ワインのように「時」を飲む。ヴィンテージを楽しむプーアル茶(黒茶)の魅力と茶器

プーアル茶

肌寒さを感じる夜や、こってりとした美味しい食事を楽しんだ後。体を芯からポカポカと温めて、胃腸を優しく労わってくれるような飲み物が恋しくなりませんか?

華やかな「ジャスミン茶」、フルーティーな「鉄観音」、自然派の「白茶」とご紹介してきた中国茶の世界。今回は、少し趣向を変えて、お茶でありながら「ワインのように熟成(ヴィンテージ)を楽しむ」という、知的好奇心をくすぐるお茶をご紹介します。

深く濃い水色(すいしょく)と独特のコクが特徴的な、中国茶のディープな世界「プーアル茶(黒茶)」の魅力に迫りましょう。

菌の力で美味しくなる?「後発酵(ごはっこう)」の魔法

プーアル茶は「黒茶(へいちゃ)」の仲間

プーアル茶の最大の特徴は、その特殊な製法にあります。緑茶やウーロン茶は茶葉自身の酵素の力で発酵させますが、プーアル茶が属する「黒茶」は、一度加熱して酵素の働きを止めた後、麹菌(こうじきん)などの微生物の力を借りて「後発酵」させるというプロセスを経ます。

この微生物による発酵のおかげで、茶葉の渋み成分が分解され、まろやかで奥深いコクのある「プーアル茶」へと生まれ変わるのです。

プーアル茶は、中国の雲南省(うんなんしょう)という自然豊かな地域で作られたものだけが、その名を名乗ることを許されています。

あなたはどっち?プーアル茶の「生茶」と「熟茶」

プーアル茶の世界に足を踏み入れると、必ず「生茶(なまちゃ/せいちゃ)」と「熟茶(じゅくちゃ)」という2つの言葉に出会います。この違いを知っておくと、お茶選びがグッと楽しくなりますよ。

  • 生茶(なまちゃ):時間をかけて自ら育つお茶
    伝統的な製法で、茶葉を自然の環境下に置き、数年から数十年という長い年月をかけてゆっくりと発酵(熟成)させます。若い生茶は緑茶のようにフレッシュですが、10年、20年と時を経るごとに味が丸くなり、驚くほど高値で取引される「ヴィンテージ茶」になります。
  • 熟茶(じゅくちゃ):すぐに美味しく飲めるまろやかなお茶
    1970年代に開発された近代的な製法です。茶葉に水をまいて多湿状態を作り、短期間(数ヶ月)で一気に発酵を進めます。私たちが日本でよく口にする「黒くて独特の土っぽい香りがするプーアル茶」はこちら。胃に優しく、渋みが全くないため初心者にもおすすめです。

固まりを崩す、大人の贅沢な「儀式」

プーアル茶は、茶葉がパラパラの状態で売られていることもありますが、多くは円盤状やドーム状にカチカチに固められた「緊圧茶(きんあつちゃ)」という形で販売されています。円盤状のものを「餅茶(びんちゃ)」、お椀のような形のものを「沱茶(だちゃ)」と呼びます。

なぜ固めるのか?それは、かつてシルクロードなどの長旅で運ぶ際にかさを減らすため、そして内部の湿度を保ち、ゆっくりと熟成を進めるためです。

☕ 筆者のちょっとしたこだわり
この固められたプーアル茶を飲むためには、専用の「プーアル茶刀(または茶針)」というアイスピックのような道具を使います。
夜、静かな部屋で茶葉の層にそっと茶刀を差し込み、パリッ、メリッ…と茶葉を崩していく時間。この一手間こそが、心を落ち着かせる最高のマインドフルネスになります。淹れる前から「憩いの時間」は始まっているのです。

プーアル茶を美味しく淹れる茶器とコツ

プーアル茶(特に熟茶)は、熱湯でしっかり抽出することで、独特の土臭さ(陳香:ちんこう)が甘みに変わります。

鉄観音の時と同様に、保温性の高い厚手の陶器や、紫砂壺(しさこ)がぴったりです。また、プーアル茶は「洗茶(せんちゃ)」といって、一煎目のお湯は数秒で捨てて茶葉のホコリや雑味を洗い流し、二煎目から飲むのが美味しく淹れるコツです。

おわりに

花のような香りのジャスミン茶から始まり、発酵の魔法を楽しむ鉄観音、限りなく自然に近い白茶、そして時を重ねるプーアル茶と、中国茶の多様な世界をご紹介してきました。

「今日はどのお茶を、どんな茶器で淹れようか?」
そんな風に戸棚の前に立つ時間から、憩いのひとときは始まっています。ぜひ、あなたのお気に入りの一杯を見つけて、心豊かなリラックスタイムをお過ごしください。